41 加藤正 (1926~2016) 「M女の像」 



上村真澄(宮崎県児湯郡)

41 加藤正 (1926~2016) 「M女の像」 油彩 キャンバス 3F
2012年制作


「大切なことは加藤先生が教えてくださった」

2011年、宮崎県立美術館の肝いり企画展として催された「生誕100年記念瑛九展」のエッチング講座で加藤先生ご本人との出会い。デッサンなさるとき、シャッシャッとためらいのないリズムを奏でる先生のお姿を今でもはっきりと思い起こせ ます。その先生が5月に逝去の一報。2週間前に宮崎市ひむか村のたまて箱さん(ギ ャラリー)でお会いしたばかりでした。それはお元気そうなご様子で精力的に子供た ちへ絵のデッサンを教えていらしたと伺い喜んでいた矢先のこと。私はしばらく「加 藤ロス」となり放心してしまいました。こんな時、一番先生が喜んでくださるのはど んなことなのかしら。そう回顧し導き出した答え、それは「作品の話をする」です。
今回のコレクション展に寄せて瑛九とともに時代を創りあげた、加藤先生が教えて くださったことを以下に刻みます。

①立ち止まるくらいなら描きつづけろ ②知り得たこと、手にした答えは惜しみなく 横に渡せ ③美を見つめるまなざしはフェアとリベラルであれ ④自分の世界観を持 ちエッジをたてて生きてゆけ ⑤燃えなさい、とことん

紙の1枚を貴重と惜しんだ戦時中にそれでも描き続けた先生のたくましい灯を今回 も感じて頂けたならと、貴重な人物画をお運び致しました。

42 前田常作 (1926~2007) 「東方の光」



秋山功(群馬県高崎市)

42 前田常作 (1926~2007) 「東方の光」 須弥山界道図シリーズNO.633
油彩 キャンバス 50.2×72.9cm 1973年~75年制作


日本人の大半が自分は無宗教者(無神論者)だと思っているようだが、実際には自 覚していないだけで、ほとんどの人が信仰心を持っている。その証拠に、初詣やお参 りに出かけたときには、みな必ず手を合わせる。
さて、そんな日本人の宗教的世界を独自の「マンダラ」として表現した作家が、前 田常作である。前田は、パリ留学中に批評家のジャレンスキーによってマンダラ的作 風であることを指摘され、自分の進むべき道を開眼したという。
その後、自己を厳しく見つめ、絶えず心の研鑽を積むことで、自己の美を高めてい くことができると考えるようになり、自ら実践し、「心のデッサン」を著した。
その中で「心のデッサンがしっかりとできている作品は、画面から霊的な波動がひ たひたと迫ってきて、見るものをその中に包み込んでしまうような力を持っていま す。」と述べている。そして言行通り、高度で独自な美の世界を創作して見せたのだ。 今回は、そんな前田常作の神秘的で繊細なマンダラの世界の一端を皆さんに観てい
ただきたく本作を出品した次第である。

43 平野遼 (1927~1992) 「草を摘む女、修学院にて」



太田貞雄(東京都八王子市)

43 平野遼 (1927~1992) 「草を摘む女、修学院にて」 油彩 キャンバス
3F 制作年不詳


平野遼の作品は、どれも対象が曖昧で不安を感じさせる絵であるが、どことなく惹 きつけられるところがある。
この作品も、女の手元が漠然としている。タイトルを「草を摘む女」としているが、「花を摘む女」とした方が華やかであろうに、なぜ「草」としたのであろうか。 黙々とひたすら雑草を取り続ける女の後姿はどことなく侘しい感じがする。この侘しさを表すために「草」としたのであろうと推察している。 タイトルの後ろに「修学院にて」とあるため、宗教心を持って奉仕する女の姿かもしれない。あるいは若くして亡くなった母親の姿を思い浮かべたのかもしれない。

44 大沼映夫 (1933~) 「四角いリボン」



中村徹(神奈川県川崎市)

44 大沼映夫 (1933~) 「四角いリボン」 油彩 キャンバス 6F
1970年代後半頃制作


大沼映夫は、「白彩降臨」などの線形を用いた抽象的作品を現在は発表しているが、 1980年頃まで独特な人物様式の作品を制作していた。1972年に母校の東京芸 術大学に勤務する前、1963年にアムステルダム王立美術学校に留学、その後約8 年間オランダに滞在している。その間キュビズムやモンドリアンの抽象的な様式を咀 嚼し、モンドリアン風の形態と多角的な視点を組み合わせた顔の人物画、特に女性像 を好んで制作していた。輪郭線で表す目や口、表情など、デフォルメされたその顔は 独特である。
本作は制作年不詳であるが、その様式などからみて1970年代後半から1980 年頃に描かれたものと推察できる。
日本の抽象系画家の一部には、情動やパッションで作品を描けると考えている向き があり、体質的にフォーヴィスムに親近感を持つ画家が少なくない。もちろんパッショ ンも重要であるが、ともすればキュビズムの研究を怠りがちである。
大沼は、キュビスムを深く研究した絵描きであり、現代日本洋画界を代表する画家 の一人である。

45 佐々木豊 (1935~) 「裸婦」



増田一郎(静岡県浜松市)

45 佐々木豊 (1935~) 「裸婦」 油彩 キャンバス 8F 制作年不詳


昭和60年、牧場経営をしていた私が49歳の時だった。その日は宵から降り始め た雨が朝になっても止まなかった。秋の牧草の収穫で疲れ切っていた私は骨休みのつ もりで浜松市にある森田画廊を訪ねた。画廊主が佐々木豊の裸婦の前で説明を始めた。
「この絵は恋に破れた作家がその恨みをキャンバスで晴らそうと、ことさら醜い肢 体を描き、さらに荒々しくペンでひっかいて鬱憤を晴らしたのだ。正に作家の情念が 漲った作品だ」聞き入っていた私はためらわず買うことにした。

現代洋画壇の鬼才といわれ、著書、泥棒美術学校で絵画制作方法を公開。 モチーフ選びから構図の決め方、色彩、マチエール、展覧会必勝法まで。自らの経験に基づいた実践に役立つ佐々木流絵画技法を指南し、話題になった。
       

46 中林忠良 (1937~) 「Transposition-転位-Ⅲ」



伊東總吉(東京都世田谷区)

46 中林忠良 (1937~) 「Transposition-転位-Ⅲ」 エッチング 紙
57.0×45.3cm 限定50部 1979 年制作


作者の中林は、東京芸術大学油画科では大学院まで木版画の野田哲也と同期だが、 3年ばかり年長である。駒井哲郎に師事し銅版画一筋で、自然物(小石、木片、ある ときは枯草など)を転写した凹版黒白のモノクロームの版画を制作。
すべて腐らないものはない ・・・ という作者の哲学は、近年ますます枯淡幽玄 の作品を生んでいる。
本作は、一見花束の形をとっていて目を惹くが、当時の美術展のポスターに利用さ れていてその記念もあって求めたものである。

47 野田哲也 (1940~) 作家レゾネ NO.48 「日記1969.6.9/ Diary June 9th.69」



木村悦雄・正子(千葉県千葉市)

47 野田哲也 (1940~) 作家レゾネ NO.48 「日記1969.6.9/ Diary June 9th.69」 木版・シルクスクリーン 紙 45.0×45.0cm 1969年制作


今回のテーマが、人物、自画像等、毎回のことながら「今年は何を出品させていた だこうか」と悩む。ひらめき、「あそうだ。直近で作家のレゾネが完成したばかりの 野田作品コレクションの中に自画像があった」な。
作家にとって、作品制作と同様な位置で「レゾネ」制作の意味は重い。しかしなが ら、特に我が国においてはその概念が薄く、作家人生に並行して「レゾネ」が制作さ れることはほとんどない。そのような状況の中で、1ギャラリストの力によって「版 画家・野田哲也作品レゾネ」が最近刊行された。快挙である。今回の表題にも「レゾ ネNO.○○」と記したが、その重みは計り知れなく意義深い。
展示作品は「自画像」である。作家20代の終わりに制作された。レゾネを制作し た画廊で作家と親しくお話をさせて頂き、我々が抱いていた長年の謎のいくつかを解 き明かす機会に恵まれた。野田作品に漂う独特の風情の根底をなすものは、作家ご自 身が長年変わらず一貫して守り通してきた「真摯」な生き方、制作姿勢にあることを 改めて知ることができたことが一番の収穫の時間であった。詳細プロフィールに変え て、2014年大英博物館・日本館にて個展が開催されたことを書き添えておきたい。

48 山根康壮 (1942~) 「ビンの在る静物」

 

山根康壮(千葉県柏市)

48 山根康壮 (1942~) 「ビンの在る静物」 油彩 キャンバス 6F
2016年制作


台の上のビンと、床、壁、わたし、室内の空間、との関係。

49 川崎光草子 (1944~) 「5月の風と光」



川崎光草子(東京都杉並区)

49 川崎光草子 (1944~) 「5月の風と光」 油彩 キャンバス 10F
2015年制作


透きとおる空、知らない言葉のざわめき、車の騒音、 そんな中に立っている自分です。 遠くなってしまった思い出の一日を描きました。

50 伊とうはるこ (1944~) 「不安と恍惚」



伊とうはるこ(千葉県柏市)

50 伊とうはるこ (1944~) 「不安と恍惚」 油彩 ボード
22.5×15.5cm 2005年制作


この絵は、歌舞伎俳優の中村七之助をイメージしたものである。 歌舞伎の名門に生れた宿命と、幼少の時からその顔立ちのユニークさに注目していたことも相俟って、約10年前、楽しんで描いた。そして、私にとって初めての青木画廊(ルフト)での個展ということもあり、とても思い出深い作品でもある。