粋狂老人のアートコラム
          佐倉・収蔵作品展「こころの扉―清原啓子と倉本麻弓」のこと
               念願の清原啓子作品に興奮・・・感動・・・

 
9月8日付け毎日新聞地方版(千葉)の展覧会情報を何気なく見ていたら、見覚えのある清原啓子の名前を見付けた。私は一瞬記憶違いか、もしくは別人ではとの思いが頭を過った。私は急いで自分の記憶を確かめるべく手元資料を探した。すると目当ての資料は版画関係資料の中に簡単に見つかった。しかも私の注目している画家と同一人物であることがわかり吃驚。さらに私を驚かせたのは、清原の出身地の八王子市であれば、作品を所蔵していても納得しやすいが、関係があるとは思えない佐倉市が所蔵していたことである。私の考えは「凄い目利きの学芸員氏の推薦があったか、もしくは市内在住のコレクターからの寄贈」ではと勝手な推測をしてみた。
私が清原啓子に注目したのは、NHK日曜美術館のアートシーンで紹介された際、作品の緻密さと切れ味のよさ、さらに31歳で夭折していたことが強烈に印象に残ったことが理由である。また、多分テレビ放送と同じ時期と思うが、2017年12月の他紙に「銅版画家 清原啓子展(八王子市夢美術館)」の写真付き広告が掲載されていたのを見付けスクラップしていた。これらの日頃の地道な努力が肝心な時に力を発揮してくれることを何度も体験してきた。

          
               ≪久生十蘭に捧ぐ≫

しかしながら、八王子市夢美術館の企画展は都合がつかず見逃しており、一度は現物をこの目で確かめたいとの強い思いがあった。
 私は爽やかな秋晴れの平日を選んで佐倉市立美術館に出かけることにした。美術館は旧川崎銀行佐倉支店ビルを美術館として改装利用しており、趣のある外観で、玄関を入ると20畳ほどの部屋があり、更に進むと天井の高いホールがある。1階ホールには受付、ミュージアムショップ、喫茶コーナーがあり、作品展示は2階、3階となっている。今回の所蔵品展は、2階の第一展示室が倉本麻弓作品23点、第二展示室が清原啓子作品19点、第三展示室が深沢幸雄作品4点、靉嘔作品8点、浜口陽三作品5点であった。
 収蔵作品展のチラシによると、「清原啓子(1955~1987)は、将来の活躍を
 期待されながら31歳で夭折した銅版画家です。若い頃から久生十蘭や三島由
紀夫等の文学に傾倒した清原は自ら時代遅れと自嘲しながらも、神秘的、耽美的な物語性にこだわった濃密な世界を構築しました。作品は約10年間で30点(未完成を含む)を制作したのみでしたが、1点1点作家の尋常ならざる集中力が感じられ、特に後期作品に漂う独特の緊張感は他に例を見ない類のものです。」とあります。

          
                 ≪領土≫

私は展示室に入って、最初に目にした≪鳥の目レンズ≫は想像以上の技量であることを実感しました。次の作品も次の作品も、どの作品をみても手抜きがなく精度の高い緻密さと集中力で制作したことが、作品を目の前にしてよくわかりました。私は清原の作品を前にして、伊藤若冲展を鑑賞した時のことを思い出しました。某評論家氏が若冲は並外れた集中力の画家と話していたことが蘇ってきました。清原は約10年で30点しか制作していない寡作の画家です。それだけに1点の制作に込める構想や思い、制作に掛ける時間が余人には理解し難いことかも知れません。
 因みに私の展覧会鑑賞スタイルは、展示作品の中から気になる作品、欲しい作品などを必ず選ぶことにしております。そのことが私の記憶の中に画家名や画風などが長く留まる秘訣と考えております。今回は気になる作品として≪久生十蘭に捧ぐ≫≪領土≫、欲しい作品に≪鳥の目レンズ≫を選んでみました。私は専門的なことはわかりませんが、作品の切れ味のよさ、徹底した写実、手抜きがないことが清原作品の良さであると勝手に思っております。
 ところで残念なのは、清原の図録が作成されていなかったこと。なお、収蔵品展は2018年9月24日(祝日開催)まで開催中で、嬉しいことに入場無料である。この展覧会を見逃すのは勿体ないかも?

独り言
帰りの車中で一つ疑問が湧いてきた。それは約10年で30点しか制作していない画家が、収入はどこから得ていたのか?そのような状態でなぜ集中力を切らさず作品を生み出すことができたのか?等々・・・・
私は念願の作品と出会い感動の余韻に浸っていた気分から一瞬にして現実に引き戻されてしまった。

注1、久生 十蘭(ひさお・じゅうらん)は日本の小説家、演出家。北海道函館市出身、本名阿部正雄。推理小説、ユーモア小説、歴史・時代小説、現代小説、ノンフィクションノベルなど多彩な作品を手掛け、博識と技巧で「多面体作家」「小説の魔術師」と呼ばれた。 ウィキペディア
 注2、今回は清原啓子が目的のため他の画家についてはコメントしておりません。