荒井由泰さんのアートコラム  
             前衛美術家・斉藤陽子・TAKAKOの生き様に感動!

        

      

  

          

      

   
       
       「youtube  Takako Saito/You and Me」
        
      

      

       


創造美育協会(創美)と小コレクター運動に関する調べ物をしていた時、偶然フルクサスの斉藤陽子の名前と出会った。日本美術オーラルヒストリーアーカイヴに彼女の名前があった。このアーカイヴは美術界で活躍しているアーティストに直接のインタビューを通して、その人生やアートの原点を紐解くものである。
私のふるさと・福井県出身の現代美術家で名前ぐらいは知っていたが、1週間にわたるインタビューで赤裸々に語る言葉にたくましくインターナショナルな世界で活躍してきた生き様を知り、驚きと敬意の念を強く抱いた。彼女は日本ではさほど知名度は高くないが、欧米ではフルクサスのメンバーとして有名で、ニューヨークの近代美術館(MOMA)には16点の木工のアートワークが所蔵されている。福井の誇りでもある「斉藤陽子」を皆様に知ってもらいたいと思い、筆を取った。

彼女は1929年に福井県鯖江市の大地主の家に生まれ、戦後日本女子大に学び(映画ばかり見ていたようだが)、福井に戻り、中学校の事務員、その後国語と家庭科の先生になった。美術は好きだったようだが決して美術家を目指してはいなかった。そうそう、彼女の名前だがサイトウヨウコと思っていたが、正しくはサイトウタカコと読む。小学校の低学年のとき、父親が姓名判断でミサコから陽子と書いてタカコと読む名前に変えたようだ。

彼女は1963年に果敢にも単身でニューヨークに行き、そこで偶然にもフルクサス運動(1960年代初頭にニューヨークではじまり、世界中に波及した前衛芸術のムーブメント。美術、音楽、舞踏、詩の境界を横断する実験的な取り組みで、フルクサスの名のもと展覧会、コンサート、パーフォマンス、インスタレーションをはじめ、出版や作品の販売が行われた。その提唱者はリトアニア出身のジョージ・マチューナスで、ナムジュン・パイク、ジョン・ケージら、日本人ではオノヨーコ、靉嘔(アイオー)らが参加)に靉嘔のロフトの2階に引っ越した縁で遭遇し、フルクサスのメンバーとして活躍することになる。

彼女は1950年代はじめ、中学校の教員時代に福井の創造美育運動の草分け的存在の木水育男らと出会い、創美のメンバーとなった。創美の夏期ゼミナールに積極的に参加し、創美の提唱者でリーダーの久保貞次郎の考え方に強く影響を受けた。創美運動が求めた子供たちの自由闊達な絵は子供たちが持つ創造力の賜物であり、先生と生徒という上下の関係性でなく、対等な中に生まれたものであると評するとともに、無名のアーティストを支援する小コレクター運動は「世界に例のないすばらしい運動」と言い切っている。彼女の作品やパーフォマンスには創美運動の真髄が色濃く残っているように感ずる。

創美との関わりから芸術に対する想いが強くなり、福井を飛び出し、東京へ。そして北海道(絵を描きながら日雇いに人夫をしていた)、さらに米国(ニューヨーク)、フランス、イタリア、イギリス、ドイツへと世界が舞台となっていく。彼女は生来、大変器用で自分で洋服や木工品作りをやり、また料理も得意で、どんな仕事もいとわず、自然体で人と接し、様々な苦難(各国での滞在ビザの取得に苦労したようだ)もしなやかに乗り越えた。そして、フルクサスの一員として、キャリアを重ね、世界的なアーティストとして、91歳になった今も遊び心いっぱいで作品作りやパーフォマンスを続けている。

1991年に福井市のディマンシュホールで「斉藤陽子展 遊びーパーフォマンス」が創美の渡辺夫妻の尽力で開催されている。当時、私は福井にいたにもかかわらず、残念ながら見逃した。30年近く前のことなので、この展覧会を体験した人は限られている。アートフル勝山のメンバーで美術喫茶サライの経営者の松村せつさんは歴史の貴重な目撃者の一人だ。突然、裸になって、母親の着物に着替える不思議なパーフォマンス等に感動したことを話してくれた。

彼女のアートや生き方に興味を持った方は是非とも「日本美術オーラルヒストリーアーカイヴ」にアクセスしていただき、インタビュー(2014年1月14日〜20日ドイツ・デュセルドルフの自宅にて)を読んでいただきたい。また、YouTubeでTakako Saito Fluxus で検索すると展覧会でのパーフォマンスも見ることができます。歳に関係なく、子供のような遊び心を持って、観衆を楽しませる姿には本当に心を動かされます。コロナ禍で不安や不信がまん延するなか、アートの持つ力を信じたいものです。

日本美術オーラルヒストリーアーカイヴ 斉藤陽子
http://www.oralarthistory.org/archives/saito_takako/interview_01.php