ひなつきみつか の美術読書
           第三回 やっと書けた実川さんへの手紙にかえて

 「自由が丘画廊ものがたり 戦後前衛美術と画商・実川暢宏」
金丸 裕子 平凡社 2023年


たいへん久しぶりのコラム投稿となった。
企画倒れだったのかは考えないようにしたい。(反省の色がない。)

素敵な本に出合った。

私が実川さんに出会ったのは、去年2023年のあーと・わの会の総会での講演だった。知らないアーティストの話ばかりなのに、その話にしびれ、楽しい時を過ごした。二次会にもご一緒させて頂き、場をなごませる人柄に、一度で大好きになった。

本を出されるという。
帰りの山手線までご一緒した。いつまでも、話を聞いていたかった。
本が楽しみなのだったが、日々の喧騒と、仕事、介護福祉士国家試験の試験勉強で、うちの掃除もできない中(お恥ずかしい)で、いつ出るんだっけ?となっていた。

そこで、たまたまその年の11月にわの会の放談会があり、この本をお持ちになっていらした方が!実のところ、この本を手にするかは迷っていた。現代美術について、恥ずかしながら全く知らず、読んで解るか疑問に思ったからだ。
しかし、総会での実川さんを思い出し、放談会で本の実物を見てからは早かった。その場でAmazonさんから購入した。翌日には届く便利な時代だ。

あの楽しかったひと時を思い出した。試験勉強一休みして読んでみよう。

再び現代美術わからないしなあ。と読み始める。すでにそのアーティストたちが物故になっていることを思い出す。その画家が、どんな絵を描いているのか分からないのに楽しい様子が目に浮かぶ。

写真の中に私より若い35歳の実川さんが収まっている。なんだか次の何か楽しいことを思い浮かべてワクワクしているようだ。そのワクワクがたっぷり詰まった本になっている。

この本で印象に残った言葉にコメントを入れてみたい。


「ぼくは、その瞬間にはわからなくても、心や感覚に引っかかる-p180」
「実川からこの話を聞いたときに、これこそが現代美術の醍醐味だと感じた。現代美術は凝り固まった自分の考えや感性を変えるきっかけを与えてくれるものなのだ。p181」

実川さんはいいものをかぎ分ける力を子供のころ見た、海外の一流の絵画を始め、様々な絵画を見てきた。その目が直感を与えたのだと思う。

「自由が丘画廊は商売を営むところであるのに、大らかで、澄んだ空気が流れていた。もちろん、知的で鋭い感性の持ち主が集まっていただけに、互いを研磨する張り詰めたものも漂っていただろう。ともあれ、美術に惹かれる二十代三十代の人たちが、これから自分をどう活かし表現するかをゆっくり考えるには最適な場所だった。~社会がつくったレールから外れても、こんなに愉快に生きられるんだと、(p128)」

こんな場所で私も生きてみたかった。もっと早くに生まれて、絵画に出会っていたらと本当に残念に思った。


「みんな対等でいいんだよ。と実川さんは言ってくれた。(p197)」

だからご一緒した総会の帰りの山手線で、私はたいへんに居心地がよかったのか?乗り換えの駅がいっしょで、何だか離れがたかった。


「美術はあくまでも趣味であり、遊びの対象だとぼくは思う。作家の成功を一緒に夢見て、絵で遊ぼうというぼくの冒険心に乗ってくれるコレクターたちと出会えたのだから最高に楽しい人生でした。(p261)」

実川さん、まだまだこれからですよ。

この本は「自由が丘画廊の終わり」を書いていない。自由が丘画廊はもうないけれど、実川さんがいれば、そこが今でも「自由が丘画廊」なのだろうと感じる。
いつまでも自由が丘画廊の空気に浸っていたい。

さて、またこの本の最初に戻って、登場するアーティストの作品の画像や画集でみながら読み返すとしよう。
そして、実川さんにまたお会いできるのを楽しみにしたい。