ひなつきみつか の美術読書
第一回 画家の誕生 絵本「てん(the dot)」のこと
画家の誕生
絵本「てん(the dot)」のこと
ピーター・レイノルズ 作 谷川俊太郎 訳 あすなろ書房 2003年
はじめまして。このコラム「美術読書」では、「美術に関する本」「美術にまつわる本」をご紹介したいと思います。
ここでご紹介する本の表紙などの画像については、載せることが著作権の関係上なかなかできません。ここにいらしている方は、インターネットでご覧になっているはずですから、ネット書店などでご確認いただければ幸いです。
以前会誌で取り上げたこの絵本をここで、もう一度取り上げることにします。
表紙は太陽のような大きなオレンジの「点」をちいさい女の子が、長い柄を付けた刷毛で描いている姿。オレンジの「点」のなかにひらがなで大きく「てん」と書かれています。これは作者のレイノルズが書いたのか?訳者の谷川俊太郎が書いたのか?まったく別の装丁家が書いたのかはわかりませんが、すべてに可能性があります。
カバーの見返しに「世の図画ぎらいを勇気づける楽しい絵本。」と書かれています。私も実は絵が描けません。見るのは大好きなのですが・・・
主人公はワシテという、お絵かきが苦手な女の子。またまたお絵かきの時間になにも描けずに、白い画用紙を前にため息まじり。
先生から、画用紙に「何かしるしを」するように言われ、「そんなことならできる」と、点を打ち、言われるままにサインをして提出します。その次のお絵かきの時間に起こったことは?
このことをきっかけに、ワシテはたくさんの「点」を描き始めます。夢中になっていろいろな「点」を描き続けます。「画家の誕生」です。
何週間か後には学校で展覧会が開かれます。そこで出会った男の子とワシテの会話でまた、次の画家が誕生するのでしょうか?そこでこの物語は終わります。
ピーター・H・レイノルズは私の好きな絵本作家で挿絵画家です。一見マンガチックでもある絵柄は子どもたちにも人気があります。「1961年、カナダ生まれ。小さいころから物語や漫画を描いて育つ。」と作者略歴にはあります。この絵本の奥付に「この本の絵は水彩絵の具と紅茶を使って描かれています」と書かれています。レイノルズがワシテを借りて描く「点」はそれ自体が芸術作品だと思います。美しいと同時に、楽しくてなんだか私にも描けそうな気がしてきます。
私は主人公ワシテの心の変化がワシテを取り囲む「点」の色に表現されていると考えました。冒頭の何も描けなくてため息まじりのワシテには黒に近い灰色を、展覧会をして観客を見ているときには、幸せそうなオレンジ(ワシテの表情も満足そうです。)をワシテのオーラのようにレイノルズは置いています。このほかにもこのような表現が各所に見られます。
子どもたちは、小さいうちから絵本という「芸術」を見て育ちます。その「芸術」が「文章」なのか「美術」なのかは、その子の特性にもよってくるでしょう。
ワシテのようなちいさな「画家」がたくさん育つことを願ってやみません。
いかがでしたでしょうか?もしよろしければ、ネット書店とはいわず、書店や図書館で直接お手に取っていただければと思います。
こんな感じで、書いていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。