Ⅳ わたくし美術館の作り方、運営方法 事例の紹介


  わたくし美術館(中小私立美術館)は実に千差万別です。2022年8月現在「わの会」の会員のわたくし美術館は19館存在します。美術館の作り方、運営方法は自分に合った わたくし美術館を見学、相談いただくのが良いと思います。ここに柏わたくし美術館の事例を参考に掲載させていただきます。

⑴  法的規制; わたくし美術館を作るのに特にこれといった法的な規制はありません。

⑵  わたくし美術館の仕分け
1 一般的な美術館; 「全国美術館会議」のメンバーを一般的な美術館と言われています。
基本的には博物館法をクリアーした美術館、国公立美術館、大手私立美術館です。
2 私設美術館;、「全国美術館会議」に所属しない中小の私設美術館は全国におおよそ240館ほど存在し、私設美術館は、「わたくし美術館」約120館と「個人美術館」約120館の2種類に分けることができます。 「美術館の役割である1収集、2保存、3展示し、またそれらの文化に関する4教育、5美術普及、6美術研究を行なう施設である」の内、美術館の基本的3要件と美術普及等の+アルファーを有している場合が多いようです。
3 コレクターの美術館「わたくし美術館」は120館ある「わたくし美術館」(「2」項)は
ある程度の規模を持ち、企画展を推進している美術館を差します。
4 小規模のわたくし美術館も100館ほど存在致します。世界一、日本一小さな美術館と称したり、ミニ、プチ美術館、サロン形式の美術館、作品の販売も目的とした画廊の様な機能を持ち、美術館を名乗っている館も100館ほど存在致します。
5 「わたくし美術館」はまさに千差万別です。
A 美術館の役割は次の6項目( 1収集、2保存、3展示、4 文化に関する教育、5美術普及、6美術研究を行なう施設である)の内どこまで範囲としているのか?
B 展示スペース、展示点数も様々です。 C 所蔵作品数も様々です。

⑶  ギャラリーと美術館は違います。
ギャラリー(Gallery, Art gallery)は、美術作品を陳列・展示したり販売したりする施設や組織を言います。公共機関か美術商が建造物等を管理しているのが普通です。美術館と比べると敷地面積や屋内体積は小さく、入場料を取らない場合が多いものの、例外もあります。画廊とも呼ばれますが、扱う製作物が絵画に限られないこともあり、近年ではギャラリーという語が選ばれる場合が多いようです。

<参考> 美術館は、美術品を主たる対象とする専門博物館の一分野であり、英語を始めとする欧州各国語でも博物館の概念に包含されるものである。美術館は、博物館の一形態という性質上、収蔵品の蓄積が展示と並んで重視される。展示を中心とする施設にはギャラリー(英: Art Gallery)がある。ただし、美術館とギャラリーの境界はあいまいで、中間的な施設も多い。類義語として絵画館(ピナコテーク、独: Pinakothek)や彫刻館(グリプトテーク、独: Glyptothek)がある。

⑷  わたくし美術館の作り方、運営方法、知見等 事例;柏わたくし美術館 (活動期2000~2014年)
わたくし美術館は、千差万別ですので「わたくし美術館」としては所蔵品数、展示点数から考えて小規模の柏わたくし美術館を作るときの事例を紹介致します。

<基本的な考え>  約1000点の所蔵作品を自宅で展示、公開する。 個からの発信を基本とし草の根美術普及を目的とする。
<美術館の役割>  1収集、2保存、3展示、4 文化に関する教育、5美術普及、6美術研究
の内1,2,3、+5を主に目的とする。
<相談した相手>  わたくし美術館の設立に於いて相談した方は極少数。
1 わたくし美術館の会の尾崎正教さん 著書「わたくし美術館」4巻を調べ、相談。 
2 柏市の文化課に挨拶 柏わたくし美術館名の連絡、相談
<相談しなかった相手> 上記以外はあえて相談せず。理由は反対意見が想定され、意欲を削がれる恐れからです。個人的に親しかった方、私立美術館にも相談していません。
<柏わたくし美術館の設立> 
①  2000年11月1日~ 56才の時 実質開館期間は13年間ほど、以降は貸出美術館とし、わたくし美術館の会の(現在のあーと・わの会)事務局を担当し、サポート役に転じた。
②  コレクション 約1000点  物故中心、現存作家へ、総花的コレクション 200万円/年、三十数年間コレクションです。極普通のサラリーマンコレクターです。
③ 初期投資 画集・パンフレット 180万円、看板、受付 20万円 自宅利用
④  日、月、火、水 午後開館 要予約  自宅活用 6部屋 柏駅から3.5km(バス15分)
柏の葉キャンパス駅から徒歩13分。
⑤ 展示空間  百数十点が展示可能。企画展70点、常設50点ほどが基本です。
30点以下では少ない(画廊ではOKですが)。 130点以上は多すぎる。
<開館の趣旨> 心の癒し、心の活性の為にコレクションしてきました。精神世界の充実と拡大の為、公開しています。社会貢献が目的です。格好をつけて「心の開放」をキャッチフレーズ、看板にしています。発信(広報)はあくまで個からの発信しかも全国向けを継続、優先しています。
草の根美術普及が基本です。(実態は、スタートは実はヤケノヤンパチです。自分自慢出来楽しむことが出来ればそれで良いからのスタートでしたが開館して見ると市民、マスコミの反応は予想以上で自身では成功でした)

⑸  柏わたくし美術館の運営、経営の事例
A 美術館単体経営  年間100万円~150万円程度の赤字経営です。
①  美術館収入 30万円/年        (収入/経費×100%=20~23%)
② 経費130万円/年 (交際費 30万円 宣伝費 40万円 旅費交通費 20万円
運搬費、梱包費 10万円、通信費・用役費 15万円、その他経費 15万円)
  B 収入 年金・副収入等  400万円/年 
  B-A=300万円/年  健全なる黒字経営?です。 

<現在の個人収支バランス>
  C 収入 年金+企業年金+副収入= 400万円/年程度  
D 支出 コレクションの充実    150~200万円/年程度
     美術館への充当      100~150万円/年程度
( 開館後作品購入を中心に1000万円程度出費 )

<柏わたくし美術館の企画展について> 事例
① 年5回程度の企画展(1)特定作家の個展、回顧展       70点目標
(2) 一人のコレクターのコレクション展  70点目標
② 当初物故作家の展示を重点に運営  物故者の企画展は力不足、現存作家中心に切り替え、力ある女流作家の発掘顕彰を推進
➂ 企画展実施回数 平成13(8回)、14(9回)、15(7回)、16(5回)、17(5回)、18年(5回),19年(4回)、20年(4回)
    毎月企画展の実施から一企画2ケ月間開催、休館月を導入
③ 現存作家の企画展の条件 
* 美術館使用料は無料、
* 宣伝費、展示、キャプション作成、客の対応は美術館で負担、実施
* 作家持ち:運搬費、保険
* 販売は原則実施しない。販売実施の場合は極力画廊経緯で実施、もしくは販売出来た場合謝礼(30パーセント)は極力、作品でいただく。
* 好きな企画展、身の丈にあった企画展 のみ実施  (堅持すべき事項 )

< 柏わたくし美術館の経営経験による知見等 > 事例
  認識 ; 吹けば飛ぶような小美術館、美術館を名乗るのがおこがましい。気恥ずかしい。
     でも心は日本有数のコレクター気分 自己実現が出来ました。               
① わたくし美術館のライフサイクルは長くはない。5~10年程度と推定します。10年以上開館継続されているわたくし美術館も結構存在します。
 節目は3年目(珍しさで3年間は続く、客が来る)、5年目以降は実力勝負。現在14年続きました。
② 常設展のみでは来館者・リピーターは望めない。企画展は不可欠です。
美術館の魅力を維持するには、新収蔵品の充実も重要です。
③ マスコミが勇気の気付け薬 良い企画が必要 企画展毎に40社へ投げ込み投稿実施。
④ 一般的な閉館理由 ア 来館者の減少 イ 赤字拡大 ウ 収入の減少 
エ 企画展の一巡  オ 家族の理解 カ 加齢による体力、やる気の減退 
⑤ わたくし美術館の経営は赤字がベース。経営努力は赤字の減少となります。と認識すべきです。
黒字経営は至難です。規模を大きくすれば赤字幅の拡大があると考えるべきです。
参考 (入館料金、グッズ販売÷使用した経費)×100%=が30%は良い美術館です。
70%赤字は大手で税金、寄付金で補填、中小で他の収入で補填。柏わたくし美術館では年金、副収入で補填、健全な赤字経営ですので、開館継続期間の延長(余裕資金の状態にもよりますが)が出来ています。
 ア 立地条件は重要です。 特に交通の便が良く、観光地が良い。 ウ 喫茶、図書館の設置が好ましいが独立採算が良い。 エ イベントの実施 オ 客の対象を地元重視か全国対象なのか明確にする。  カ 家族の理解が重要です。
 注意:ウ、エは単体で黒字化が好ましい。実態は美術館の赤字補填と入館者増が目的です。

<柏わたくし美術館のコレクションの考え方>  
Ⅰ 時の試練を受けたレベルの高い作家、物故作家がスタート。これが基準。
Ⅱ コレクションは30点/作家以上又は1作家300万円まで。
Ⅲ 発掘顕彰型コレクション、他の方が企画実施した所謂手垢のついた作家は避ける。
Ⅳ 難しいが世界に通用する作家。
Ⅴ コレクションに塊りを作る。零細わたくし美術館では隙間の作家 例えば女流作家作品をコレクションしてゆく。1作家30点を目標に蒐集。(企画展開催の準備です)

< わたくし美術館の会の設立 >
1 柏わたくし美術館を開館して直ぐに柏わたくし美術館の安定した長期開館・企画展開催の継続は困難だと判断しました。(自身のコレクションでは3~5年で企画展は一巡)
2 コレクターとわたくし美術館の全国ネットを作り、作品の貸し借り、巡回展の実施等を図りました。当時、故尾崎正教の「わたくし美術館の会」が没後引き継ぐ者が現れず会は消えてゆく状態でした。
尾崎正教没後1周忌を待ち、ご遺族に「わたくし美術館」の使用をお願いして了解を得ました。
3 2003年、コレクター仲間とわたくし美術館の仲間30名で全く新しい組織で新「わたくし美術館の会」を立ち上げています。
4「わたくし美術館の会」は8年目には会員数70名を数え、NPO法人格を取得しました。NPO法人あーと・わの会です。会に安定と発展の可能性を与えました。10年目にはコレクション展の4ケ所の巡回展を達成し、十周年記念行事としてコレクターのコレクションを集めた「わの会の眼」を発刊成功しています。会は必要の都度、改革を実施し、現在は任意団体「あーと・わの会」、会員数68名、わたくし美術館19館です。
(参考 この柏わたくし美術館の延命作戦は成功して10年間以上にわたり継続開館出来ました。柏わたくし美術館では約半数の企画展に「わの会」会員の作品をお借りして実施されています)

< 柏わたくし美術館開館、継続の結果概要 > 事例
1 実態はボランティア、健全な赤字経営。 最愛の家族の心からの支援があった。 2 14年間継続開館(現在事情があって休館、貸出美術館としています) 3 自己実現出来、精神の高揚と充実、至福の十数年間でした。 4 来館者 30~百数十名/企画 来館者数は減少傾向 理由 鮮度減 5 企画展 47回 特長  ア 物故から現存へ イ 「わの会」会員のコレクション展開催 ウ 作家の回顧展、コレクション展 エ 女流作家展 6 開館時 行政が記者会見を開催したお陰で29社のミニコミ紙を含むマスコミが記事掲載、NHK日曜美術館アートシーンにも野田哲也展が放映。NHK首都圏で開館が報じられ、日経、鞍掛徳磨の「老女」が読売に大きく掲載。朝日新聞にも記事掲載。勇気の気付け薬となりました。広報費は40万円/年と多く予算化しました。

⑹ わたくし美術館に関係する資格等 (柏わたくし美術館は美術品商の資格は保有、学芸員資格は保有していません)
(1)学芸員の資格; この資格は出来れば取っておくと良いと思います。
学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業を行う「博物館法」に定められた、博物館におかれる専門的職員です。学芸員補は学芸員の職務を補助する役割を担います。
 学芸員になるための資格は、1.大学・短大で単位を履修することや、2.文部科学省で行う資格認定試験に合格すれば得ることができます。なお、学芸員や学芸員補として活躍するには、博物館(登録博物館)で任用される必要があります。

(2)美術品商の資格; この資格は取っておくことをお奨め致します。
営業所を置く地域を管轄する警察の生活安全課に古物商許可の届出をします。
古物には13種類の取り扱い品目があり、その中に美術品もありますので美術品商で申請する事になりますね。欠格事由に該当しなければまず問題なく許可は取れます。
http://www.kobutushou.com/kobutushou1-1.htm
個人ですと、必要書類は・申請書・住民票・登記されていない事の証明書・身分証明書・略歴書・誓約書・ドメイン取得の疎明資料(ホームページ開設の場合のみ)・証紙代19000円
です。上記は法定書類で必ず必要な書類ですが、管轄により上記以外に以下の添付書類を求められる場合はあります。・営業所の見取り図や周辺図・証明写真・賃貸契約書(営業所が賃貸物件の場合)・不動産登記簿(営業所が自己所有の場合)・使用承諾書
書類さえ揃えれば申請後40日前後で許可がおります。

(7)  絵画の保存方法
変色、カビ、ひび割れ これで安心自宅の絵画(日経新聞記事 編集委員野村義博)照明は控えめに 換気で湿度調整。

家庭にある絵画は日々さまざまなストレスにさらされている。カビやひび割れが生じたり、絵の具が変色したりするなど知らない間にダメージを受けている場合が多い。だが、ちょっとした気配りで予防できる。絵画の扱い方や保存方法を専門家に聞いてみた。
京都市に住む主婦Aさん(46)は、長らく欲しいと思っていたある日本画の大家の作品を10年前に購入した。嵐山の早朝の景色を描いたもので、日の当たる居間に掛けていた。ところが、先日友人が来て、「きれいな黄昏の絵ですね」と言われ、衝撃を受けてしまった。青空のはずの空が、黄色に変色し、夕方の風景に変ってしまったのは、光が原因、紫外線のエネルギーで絵の具が酸化して劣化が起きるのだ。こうした光による変化・退色は、所有者も気づかないほどゆっくりと着実に進む。
特に版画や日本画、浮世絵などは光に弱く、鑑賞の際の照明は控えめにすることが求められる。八畳ほどの部屋に百ワットの白熱電球をもとにした時の壁の明るさがほぼ百ルクスだが、日本画なら50ルクス、油彩で百五十~二百ルクスが適正といわれている。
ただ最近は、単純な光の強さだけでなく、「積算照度(単位ルクスアワー)」が重要視されている。1ルクスの明るさの光を一時間あてれば1ルクスアワーとなる。全国の美術館で採用されているのは年間5万ルクスアワー。このラインを超えると作品が退色はじめる可能性があるということだ。
百ルクスの光を一日八時間あてた場合、約六十三日しか展示できない計算になる。
阪神大震災の時、傷ついたり汚れたりした絵画を数多く修復した経験のある「あとりゑすぎうら」(京都市左京区)の修復士、森川博さんによると、「太陽光はもちろん、蛍光灯でも七%の紫外線が含まれている」という。このため「紫外線をカットする照明器具を用いたり、絵の表面をアクリル板で保護した方がよい」と勧める。
光とともにカビもまた絵画の大敵。横浜市に住むOⅬ,Bさん(28)の場合、ビニールの梱包材にくるんだまま押し入れに入れてあった亡父の遺品の油絵を取り出したところ、白いユリの花弁の部分がまだら模様になっていた。アオカビがいっぱい発生したのだ。
カビは三〇度近くの気温で、湿度七〇%が続くと、あっという間に繁殖する。高温多湿の夏はもちろん、冬場でも、締め切った部屋で暖房し、加湿器を使用していると、この条件にぴったりの環境になってしまう。
昔の伝統的な日本家屋と違い、特にコンクリート造りでアルミサッシ窓といった建物は気密性が高く、カビが発生しやすい。カビが養分とするのは、油彩のにかわやカンバスの布の繊維などの有機物。とりわけ、にかわにはカビの八割がつくといわれるほどの大好物だ。
反対に温度や湿度を極端に低く抑えればよいわけではない。室内が乾燥しすぎると、絵の具がひび割れしたり、はがれ落ちたりする可能性がある。絵具とカンバスの伸縮率が異なり、絵の具の表面だけが強く収縮しようとするが、空気に触れていない内部は変化しないためだ。一般に湿度が三〇%を下回る過乾燥になると、絵の具の剥落の危険性が生まれてくるといわれている。
「基本的には温度十八~二十度、湿度五十~六十%という保存環境をできるだけ守って欲しい」というのは絵画保存研究所(東京都中野区)の小谷野匡子代表。もちろん一般家庭では空調管理や保管スペースには制約が多い。小谷野さんが勧めるのは第一に換気。「ときどき窓を開け、からっとした外気を入れるようにすると良い」。また、「額の裏側に小さい穴を二つ開けるだけで通気性がよくなる」そうだ。
仕事柄、絵画の保管と展示に深くこだわっている美術評論家の阿部信雄さんは「絵画にやさしい照明と空調を採り入れれば、作品の寿命もぐんと延びる」と力説する。阿部さんは光量を調節できる間接照明を用い、絵の裏側に中性紙のマット、表側には紫外線を防ぐアクリル板で額装するなど、作品に負担がかからない工夫を施している。
作者のサインが退色して消えているため、「ピカソ作」との証明ができず、売却できなかったと嘆く収集家もいる。作品の保存状態は、その資産価値にもかかわる。正しい知識で、大切に保存しながらアートの空間を楽しみたい。

<作品の出し入れ時のチェックポイント>
1 収蔵場所と展示場所の湿度の差をきちんと把握する。
2 廊下などで1~2週間の「湿度慣らし」をしてから展示する。
3 絵画は床より高い位置に置き、エアコンの風を直接当てない。
4 絵画を掛ける壁が冷たくないか、結露しないか確かめる。
5 鑑賞する室内の温度を必要以上に高めず、空気を循環させる。

以上