田村和司さんのよもやま絵話―――“美”とは?
         第3回「世界で一番美しい瞬間、畑の大根の葉」

 
                

秋、毎年楽しみなのが家庭菜園で作る大根の葉が秋の光を浴びて輝くその時、
である。
なんと美しい事か、NHKに表題の番組があるが、私にとってこの大根の葉が
それである。
大体、この瞬間に立ち会えるのは1から2回に限られる。
なぜなら、光の加減が影響するからである。と思う。
農作業の途中、たまたま手を休めたその時にその瞬間に出合えることが多い。

さて、よもやま絵話なので絵のことを書かねばならないが、大根を描いた絵を持ち合わせていない。
この大根の葉には負けるが菊の絵を紹介したい。
菊はいつの季節にも花屋の店頭に並んでいるが私は菊が一番美しく咲くのは秋ではないかと思っている。

北連蔵の「白菊」であるがこの絵が描かれたのが秋であるということは断言できないが菊の白さを見ると秋に間違いがないと思ってしまう。それほど美しい「白」をこの画家は描いた。

菊の旬は秋。そう思わせてくれる絵である。

日本人の描く油絵、いわゆる油絵の日本化であるが、四季のある日本に生まれその風土の中で育った日本人の画家が油絵を描くとき、自ずと季節感が盛り込まれることがあると思うのだが、それを意図的でなく自然に描けた絵はそう多くはないと思う。
北連蔵の絵はあまり好きではない。それは絵に不自然さを感じてしまうことが多く、それが好きになれない理由なのだと自分は思っている。
「白菊」を何故、購入したか?
画家が菊の白さに心を奪われて自然に描いたと思えたからである。
このような絵は良い絵とか、悪い絵とかは別にして日本人だから描けたのだと思わせてくれる、そのことが私にとっては貴重な「美」なのです。
畑の大根の葉に通じる「美」なのです。